部下を指導する立場になると、「お前のためを思って怒っているんだ」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。ですが、果たして怒ることは本当に相手のためになるのでしょうか?
私は、昔から「怒る」ことで人に何かを伝えるのが嫌いですし、逆に怒られるのも苦手です。「お前のためを思って」と言われても、それが本当に私のためだったことはほとんどありませんでした。
そんな私でも、(例えば子どもに対して)時には我慢できずに怒った口調で、物を言ってしまうことがゼロではありません。その時は強く反省するわけですが、なぜ怒ったのかを考えると、ほとんど「相手のためを思って怒ろう」なんて思ってないのです。
自分が苛立っていたとか、その相手に対する不満がたまっていたとか、考える間もなく先に感情が出てしまっていたとか、その程度のものなんですね。だからこそ強く反省をするわけですが……。
本記事では、「怒らずに部下を指導する方法」について解説し、より効果的な指導スタイルを考えていきます。
なお、部下への指導に代表される「人を動かして変化をもたらす」コミュニケーションについては、こちらの書籍が大変参考になります。併せてご参照ください。
「お前のためを思って怒っている」は本当か?
怒る上司や先輩の多くが、「お前のために怒っているんだ」と言います。しかし、その言葉はどれだけ本心なのでしょうか?
本当に相手のためを思っているのであれば、「どう伝えれば相手が最も理解し、行動を変えられるか」を考えるはずです。感情的に怒るのではなく、相手に伝わる方法を工夫することこそ、指導者に求められるスキルなのです。
【怒る理由の本音】
- 自分が苛立っている。
- 相手への不満が溜まっている。
- 感情が先に出てしまった。
このような理由で怒ってしまうことがあるなら、「本当に相手のためになっているのか?」と自問自答する必要があります。
効果的な指導をするためには「相手の特性」を知る。
本当に部下に何かを伝えたい、成長してほしいと思うのであれば、相手がどうすれば最も理解しやすいのかを知る必要があります。それを知るのは難しいですが、少なくとも知ろうとする努力があってしかるべきです。
部下には様々なタイプがあります。厳しく指摘されることで成長する/褒められることで意欲が湧く/理論的な説明があると納得する/実践で学ぶことが得意……など。
私の経験上、上司が「この部下はどう伝えれば理解するのか?」を考えて接してくれるだけで、部下の成長速度は格段に変わります。
【効果的な指導のポイント】
- 面談で「どんな指導が自分に合うか」を聞いてみる。
- 一人ひとりに合った伝え方を工夫する。
- 指導の際に冷静さを保つ。
私の指導担当をしていただいたある先輩は、OJTの初日に「俺のトリセツ(取扱説明書)を教えてくれ」と言ってくれました。「どういう指導方法が嫌で、どうされると伸びるのか」を聞いてくれたのです。
「俺のトリセツ」とは、いかにも現代的な表現で笑いましたが、本質的に私を伸ばそうと考えてくださっているんだな、と感じたのを覚えています。
後になって笑われたのですが、私は「お恥ずかしいですが、ほめていただけると意欲が湧くタイプです」という回答をしました。
その結果、先輩は「面倒くさいなぁ」と言いつつも、適度にフィードバックをくれました。そのおかげで、私はより前向きに仕事に取り組めたのです。
上司や先輩の立場を経験した際、私も「この人にはどう伝えるのがベストか?」を意識するようになりました。
怒らずに指導するためのフレームワーク。
怒らずに指導するには、「感情」と「論理」を分けて考えることが重要です。私は指導をする際、以下のように整理しています。
【指導内容の整理方法】
- 論理的に正しいか(理屈)
- 伝え方に問題はないか(感情)
例えば、
指導の種類 | 種類の内容 | 指導の方法 |
---|---|---|
1. 理屈○・感情○ | 内容も正しく、伝え方も適切。 | → そのまま伝える。 |
2. 理屈○・感情× | 内容は正しいが、伝え方が厳しい。 | → 伝え方を変えて伝える。 |
3. 理屈×・感情○ | 伝え方は優しいが、内容が間違っている。 | → 指導内容を見直す。 |
4. 理屈×・感情× | 内容も間違っており、伝え方も悪い。 | → 伝えるべきでない。 |
この中で最も気を付けたいのは「理屈○・感情×」のケースです。正しいことを言っているのに、伝え方が厳しすぎて反発を生んでしまうことがあります。
例えば、「報連相をしっかりしろ!」と怒鳴るのではなく、「こういう背景で報連相をする必要があって、それをしないとこんな良くないことが起こる。」と伝える方が、部下は受け入れやすいでしょう。
怒らない指導がもたらす長期的なメリット。
怒という感情は時に便利に感じられるものかもしれません。一時であっても「怒」によって相手が委縮し思考が停止すると、自分の言っていることが「伝わった」「支配できた」と感じられることがあるのでしょう。
しかし、「怒」によって得られた結果は長続きしません。ボディーブローのようにじわりじわりと信頼が減少していき、あの人のもとでは人が成長しないという評判が形成されてしまうでしょう。
反対に、怒らずに適切に指導することで、以下のようなメリットが生まれます。
【怒らない指導のメリット】
✅ 部下が自発的に動くようになる。
✅ 信頼関係が築ける。
✅ 長期的に優秀な人材が育つ。
✅ 指導する側も精神的に楽になる。
一時的な効果ではなく、長期的に部下を成長させることを目指しましょう。
【まとめ】指導は「伝わること」が最も重要。
部下を指導するとき、怒ることが本当に必要なのかを考えてみましょう。
「伝えたいことを、相手に伝わる方法で伝える。」
このシンプルな考え方こそが、効果的な指導の基本です。
怒らずに指導する方法を工夫することで、部下の成長を促し、組織全体のパフォーマンスも向上します。
ぜひ、あなたの職場でも「怒らない指導」を意識してみてください。
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